久しぶりにフルムダンベールに舌鼓。
アンベールは、15年前、住んでいたクレルモンフェランから車で1時間ほど。
訪れたこともあったけれど、週に一度クレルモンフェランの中心部で開かれるマルシェでもフェルミエ製のフルムダンベールが手に入ったからよく食べていた。
フランスでの買い物の記憶が甦ったのは、地元のワイン屋さんで
今日のフルムダンベールは、地元のワイン屋さんで買った。
たまたま、なのか、店員さんが1人しかいなかったにも関わらず、そして私の後ろに数人お客さんが待っているにも関わらず、私が毎月お願いしている、店におまかせのワイン2本の解説をしっかりしてくれる。
「後ろに並んでいる人、急いでないかな?」そんなことを気にしてしまう自分をちょっと笑った。日本人だよな、と。
これが、フランスでの買い物の記憶を甦らせた。
フランス語ゼロなんだから、スーパーには行かない!
フランス語ゼロの状態でフランスの田舎町に5歳と0歳の子どもを連れて住むことになった。
だから、話すことなく買い物がすんでしまうスーパーには決して行くまいと心に決めた。買い物をするならマルシェや地元の店で、と。
とにかく喋る。今もっている言葉のありったけを使って。
間違いなんぞ気にしない。
ボディランゲージだって駆使して(一度子どものおむつを買おうとした時は、我ながら笑ってしまうほどボディランゲージを駆使したw。必死だったから)。
マルシェや地元の店で見ていると、フランス人はおしゃべりがほんとに好きだな、と思わざるをえなかった。
どんなに行列であろうと、店の人と客とはおしゃべりを楽しむ。
時には、その品物のことではないことまで。
ほとんどの人が後ろの行列の長さなんぞ気にしない。
おしゃべりも含めて客の権利と思っているかのようだった。
店の人たちの、客にぴったりのものを売りたいという気持ちと、その知識には驚いた
チーズを買う時のフランス人の「作法」には驚いた。
ひとつずつ手にとって、押してみて熟成度合いを見たり、鼻を近づけて匂いを嗅いだり、店の人と話したり、そしてまた押してみたり。文字通り、ためつすがめつ。
チーズひとつにここまで真剣になるのかしら?とあきれるほど悩んだ末に選ぶ人がほんとうに多かった。
仲良しになったワイン屋さんのハンサムなおにいさんは、「今晩は何を作るの?」「それはどんな料理?」と私が作る料理にあわせてワインを選ぼうと、流暢にしゃべることができない私の話を一生懸命きこうとしてくれる。
ある日は肉じゃがだった。必死で肉じゃがの説明をしたけれど、伝わったかどうかはかなり怪しい。それでも「じゃあ、コレしかないな」とワインを選んでくれた。
マルシェでじゃがいもを買おうとしたら8種類もある。店のおじさんはやはり「何を作るの?」と尋ねる。マッシュポテトを作るというと、「ならコレ」と手渡される。
アボカドを買おうとしたら、「今日食べるの?明日?」ときかれる。明日というと「じゃ、これがいいよ」と明日が食べごろになるアボカドをすすめてくれる。
店の人たちの、自分が扱う商品についての思いや知識の深さは、これぞプロと思わせるものだった。家庭料理の作り方もずいぶん教えてもらった。
日本での買い物は便利。でもたまにフランス式の買い物が懐かしくなる
もう15年もたつのに、いまだにクレルモンフェランでのことは思い出すことが多い。
娘の手をひき、ベビーカーに息子を乗せて毎日のように買い物にくる、フランス語の日常会話もおぼつかない東洋人は、田舎町でもあったから人目をひいたようだった。英語で尋ねたら追い払われた店もあったけれど。
フランスを去ることが決まった時、通っていた肉屋さんからライオールのナイフをプレゼントしてもらった。正確には、娘に。
ワイン屋のおにいさんも「帰る前にこれ飲んで!」とワインをプレゼントしてくれた。
八百屋さんやソーセージ屋さん、チーズ屋さんともビーズ(キス。フランス式は頬に3回みたい)してお別れをした。
スーパーにしか行っていなかったら絶対なかった出会い。
毎日何を食べているかまで知られている仲だからの人との繋がり。
息子はブルー系のチーズが好きで、娘はクセのあるチーズはダメで、というのもチーズ屋さんはよく心得ていて、「エメンタール入ったよ、お嬢さんに!」とか、「今日のフルムダンベールはいいよ、息子クンに」と、前を歩くだけで声をかけてもらった。
日本での生活はこんなに便利で、それを捨てたいとは思わないけれど、フランスのあの、言葉ができないながらもとにかくフランス語をしゃべりまくって買い物ひとつも必死だった日々が、客の毎日の食卓まで知り尽くしている店の人たちの笑顔が、とてもとても懐かしくもあるのだ。
でもね、一言。
ジャガイモが女か男かなんて、どーでもいいだろーがー!!!!
そんな思い出まで蘇った夜でありました。
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