6月9日、佐賀市内のホテルで開催された「九州のECOな農業を活性化せよ!バイオマスリンクin佐賀」に参加した。
佐賀市長・秀島敏行氏は、「バイオマス産業都市さが」構想を語る。
佐賀市では、ごみ発電・余熱利用・下水処理水の活用・汚泥の堆肥化・消化ガス発電など、「省エネ+創エネ」の考え方をもって、すでにさまざまな試みをはじめている。
このフォーラムでは、味の素の副生物を、下水汚泥から堆肥を作る施設に供給することでその悪臭を抑えるとともに堆肥の品質を向上させ、その堆肥を地元農家に安価で使ってもらうというバイオマスリンクについて、佐賀市、国土交通省、味の素九州営業所の方々からお話を伺い、現場の見学をさせていただいた。
「食と下水道の連携」国交省による〜BISTRO下水道〜
国土交通省の白崎亮氏の、「BISTRO下水道」についての説明は興味深かった。
日本では、農業に使われる肥料の原料となるリン鉱石のほぼ全量を海外から輸入しており、リンの輸入量は年間56万t。しかし、リン鉱石の価格は乱高下し、特定の国でしかとれないために戦略物資とされる可能性が高い(輸入先を調べてみたら、中国、ヨルダン、モロッコ、南アといったところだ)。今後とも日本がリン資源を安定的に確保ができるか懸念されているのだという。
実はこのリン、輸入量の約1割にあたる5.5tが下水汚泥に含まれていることがわかった。そこで、下水汚泥に含まれるリンを回収し堆肥化して農業に利用しようと、佐賀市は国交省とともに取組んできた。
工場を稼働しはじめたものの、悪臭への苦情が市民から多く寄せられて佐賀市は困っていた。そんな時、佐賀市内にある味の素九州事業所で、製品を作る過程ででる副生物が利用できるのではないかと共同で研究を始めたのが5年前。
実は、味の素50万tを作るのに、副生物がその3倍以上にものぼる160t生じるのだという。発酵した後に残ったこの副生物の中には、農業肥料として有用な成分が多く含まれていることから、味の素は30年に渡って重油で燃やすことでこれを肥料化し、味の素の原料であるサトウキビなどの栽培に使うという独自の「バイオサイクル」を維持してきた。しかし、重油価格が高く、悩んでいたところで、このコラボレーションが実現することになったのだという。
地域内で横の繋がりができることで、新たな設備投資なしにそれぞれの課題を解決することが可能に
味の素は、従来の重油による焼却を辞め、下水汚泥から作られる堆肥の発酵熱によって副生物を燃やしている。重油を買う必要がなくなり、排出CO2も削減された。
味の素の副生物に臭いを抑える効果があるため、佐賀市の悩みだった堆肥化工程での悪臭が大幅に軽減された。
下水汚泥に加えて、アミノ酸やタンパク質がたっぷり含まれた味の素の副生物が加わることで、堆肥の品質が大幅に向上した。
佐賀市内の農家は10kg20円という安価でこの肥料を調達できる上に、野菜の品質が大幅にアップした。
こうして作られた野菜は、イオン218店舗で「九州力作野菜」として販売されているという。
登壇者が強調していたのは、このしくみを作るのに、誰も新たな設備投資を必要としなかったという点だ。
地域に入ってよく感じるのは、狭い地域であるにも関わらず横の連携がうまくいっていないこと。
この佐賀市の例は、地域の中で、それぞれの困ったことをつきあわせ、強みを持ち寄ることで、皆がハッピーになる結果を得ることができた好例と思う。
味の素(株)九州事業所は、これによって低炭素杯2014で最優秀ストーリー賞を受賞している。
一口食べてその差がわかるほど、違いが歴然「九州力作野菜」
懇親会では、「九州力作野菜」の試食もあった。
同じ畑で同じ農家が作ったミニトマトを、この堆肥を利用しているものとそうでないものとで食べ比べさせてもらったところ、その味の差は驚くほどだった。甘みがとても強いのだ。
ただ、どの野菜でもそれほどの効果がでるかというと、そうでもないものも実はあるとのこと。今後に役立てるべく、味の素の研究チームがデータ化を進めている。
味の違いもさることながら、こんな事例もある。
訪れたアスパラガス農家の高橋さんの畑では、この堆肥を使うことで冬場の地温が1℃ほど上昇した。これによって、例年より10日ほどはやく、はしりの高値の時期にアスパラガスを出荷できるようになったという。
また、この堆肥を使い始めてから茎枯れ病が出なくなり、褐斑病も改善されてきているという。農家にとっては大きなメリットだ。
味の素九州事業所の高橋裕典氏が「このしくみは、他の地域にもそのまま持っていくことができるもの。是非さまざまな地域でこうしたしくみを作ってほしい」と語っていたのが印象的だった。
地域の中で連携することで、資源を無駄にせずに利用するしくみ、広がってほしい。
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