著者の佐野雅昭さんは、水産庁出身で学者になった方。専門は水産物流通の水産経済学者です。
この本では、「確かにそうだ!」と膝を打つような視点(でも言われなければ気づかないようなこと)が多く提示され、これからの漁業を考えるに際してとても参考になりました。
本当に気にすべきはクロマグロやニホンウナギにあらず
メディアは、クロマグロやニホンウナギについて取り上げ、消費者もそうしたことを大問題と捉えていますが(もちろんこうした魚種を絶滅に追いやっては絶対にいけないですが)、実は本当に気にしなければならないのは、私たちが食べている「日常食の魚」であると著者は指摘します。
漁協などを悪者にし、「中抜き流通」にすれば良いといった「わかりやすい」主張が一般には受け入れられやすいのかもしれませんが(農協を悪者にしさえすればいいという思考と類似)、実際には中抜き流通になっても水産物の価格はほとんど変わらないことを数字で示します。また、漁業の振興は企業に任せればいいという主張に対しては、企業は儲からないとなればいきなり撤退することもあり得るとその危険性を指摘します。
また、一時話題にもなったイオンの「一船買い」(獲れた魚はすべて買い取るというもの、船上投棄を防ぎ、未利用魚の利用に良いと評価する声も多い)についても、むしろシステム全体を壊す可能性もあるのでは?と理由と共に疑問を呈しています。
日本の魚食文化は、食べている魚種の多さから言っても特筆すべきもの
日本の魚食文化を、魚をよく食べるといわれるポルトガルと比較する数字も興味深いものでした。
それぞれの国で食べられている上位5魚種が占める割合を比較すると、ポルトガルは56%に比して日本は30%。私たち日本人がたくさんの種類の魚を食べていることがこの数字からわかります。(ところで、この5種ってなんでしょうね?本では触れられていなかったのですが、、。イワシ、アジ、鯖、鮭、鯛??)
漁業先進国ノルウェーにならえ、でいいのか?
漁業先進国ノルウェーに学べという人は多数います。
でも著者は、ノルウェーと日本の漁業の根本的な違いに注目しています。
ノルウェーの漁業の66%(2012年実績)は大企業が行っていること。
人口は515万人にすぎず、水産資源は国民が食べきれない量があり、常に過剰。そのために外貨を稼ぐ輸出品と位置付けられていること。
機械化が進み、電力はほぼ水力発電で非常に安いこと。
福祉が手厚いので、零細漁業者が失業しても生活は保証されており、国による業者の選別も可能であること。
などが、その差としてあげられています。
日本漁業の強みはどこにある?
では、日本漁業の強みはどこにあるのでしょうか?
著者は、漁協の存在、目利きと競売の重要性をあげます。
現在も実は漁業の売り上げの半分を占めているのは沿岸漁業。沿岸漁業をしっかりと守り、「儲かるならなんでも輸出」ではなく、日本で消費しきれないあまった分を輸出という姿勢が大切と著者は説きます。
でも残念ながら、小規模な沿岸漁業者の権利は、2007年に制定された海洋基本法によっても脅かされてきています。
食料生産を最優先してきた漁業法とは異なり、レジャーを含む海の利用全てにおける経済的利益を最大化しようという動きの中で、日本の漁業はこれからどうなっていくのか、どうするべきなのか。
私たち一人一人もまた、考えていかなくてはいけない時代に入ったということなのでしょう。
近日予定の講座、イベント
<シェアReadingの会>
「種」をテーマにシェアReadingの会を開催します。
(本を読んでくる必要がない読書会です)
2018年9月30日(日)10:00~12:00
季楽荘(横浜市緑区中山)
ファシリテーター サカイ優佳子
詳細はこちらをご覧ください。
<自家製乾物作り講座>
2018年9月4日(火)11:00~13:00
(*自家製乾物を使って作るランチつき)
品川区の会場にて
講師 DRYandPEACE
参加費 5,000円
詳細はお問い合わせください。
この講座に参加すると、自家製乾物作り講師養成講座への参加資格が得られます(9月中に開講決定しています。合わせてご参加ご希望の方は事前にお問合せください)
<秘密の気まぐれ料理教室>
2018年9月9日 (日)11:00~14:00
2018年9月27日(木)11:00~14:00
どちらも横浜市青葉区にて
講師 サカイ優佳子
詳細はこちらから
お気軽にお問合せください。
コメントをお書きください