ある日ベジタリアンになることを宣言した著者の母親が、2週間もすると「肉が好きだから肉を食べるの。それだけよ。」と元に戻ってしまう。
なぜ私たちは肉を食べたくなるのか?
肉を断つのが難しいのはなぜか?
肉がカラダに悪いなら、なぜ私たちはベジタリアンに進化しなかったのか?
etc.
母親の行動をきっかけに湧いてきたさまざまな疑問を追求するポーランド系カナダ人のサイエンス・ライターの手になるこの本、とても興味深く読んだ。
肉食が脳の発達を促した?
肉食の歴史、栄養神話、肉の旨み、企業の売り込み、遺伝子の影響、肉のタブーの理由、地球の未来まで、話題は多岐に渡る。
250万年前に人類が肉食に変わったのは、気候変動によるという。
長い乾季に植物は枯れてしまうが、草食動物たちは生きていることから、それを捕えて食べることを始めたというのだ。
脱アフリカ。
人が移動していく時に、土地ごとに違う生態系の中で、どの植物が食べられるのかは簡単にはわからない。一方で、動物は食べて毒になることはない。そこで肉食が広まっていった、と。
そして、大きな脳に進化する過程で、腸に負担をかけずに脳にできるだけ多くのエネルギーを渡すために、肉食は適していたのではないかとする。
さらには、狩りの際、また獲物を分配する際に、人は協力し合わねばならず、社会性が培われたというのだ。
肉でなければとれない栄養はほぼないのに、、、
栄養的には、肉でなければとれないものはほぼないとされながらも、肉食から離れられないのは、
父権的封建制度下で肉は富や権力の象徴となったこと
肉が仲間とそうでないものを分けるための印として使われたこと(例えば、インドにイスラム教が増えてきた時、豚を食べるか、牛を食べるかは、敵味方を見分けるための印となったという)
肉を調理する際の芳香に病み付き感を覚えること、
などなど、さまざまな理由が挙げられよう。
それほど肉と人との縁は深いのだ、、。
世界が肉を食べない人ばかりになったなら、、、?
トイレにいく時間が少なくなる
抗生物質耐性を心配する理由が減る
呼吸がしやすくなる(ヨーロッパの窒素排出量が40%減ると予想される)
牧草地はなくなるが野生動物が戻ってくる
13億の雇用がある家畜産業に従事している人たちの多くは失業する
気候変動に対する戦いに勝利を収める可能性が高まる
etc.
人類が肉食をやめると、現代における大きな問題のいくつかは解決するかもしれない。
だが、それでもすべての人が完全にベジタリアンになることはないだろうし、なりたくないと思っている人も多い。私も実際、ベジタリアンになることはできないと感じている。
フレクシタリアンが増えれば、、
友人の娘さんが最近フレクシタリアンになったと聞いた。
フレクシタリアンとは、「ベジタリアンだけれど、時には肉や魚も食べる人」のこと。
「肉も魚も一切食べません!」としてしまうと、日本では特に社会生活に差し支えかねない。
彼女は、肉が嫌いだからではなく、肉を食べることが未来の環境によくないと考えるからフレクシタリアンになったのだそうだ。
私の場合、「週に何食かはベジタリアン」程度のお気楽フレクシタリアンを意識している。魚食もOKなのであれば日本人にとってはそう難しいことではない。私が子どもの頃は肉を食べる日の方が少なかったかもしれないのだから。
週に一度肉をやめる人が増えるだけでも、未来の社会にどれほど大きな影響を与えることができるだろうか。完全なベジタリアンになるのは難しいかもしれないが、週に1度程度は大したことではないのではないだろうか。
キリスト教はかつて「断食」の日を年の半分ほども持っていた。金曜は魚を食べる日=肉を食べない日という伝統は今も一部では残っている。私がフランスの田舎に住んでいた20年ほど前には、金曜のマルシェは魚屋さんの前に行列ができていたものだ。
クリスチャンではないけれど、肉を断つ曜日を決めるのもいいかもしれない。
(魚を食べる人が激増すると、今度は海の問題も出てくるとは思うがw)
読み始めた時には、「ベジタリアンになることこそ善」という前提があるように感じて、ちょっと距離を取りながら読んでいたが、一読の価値がある本と思って最後のページを閉じた。
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